西川美和インタビュー 前編
ぶれても、ぶれても、選び続けて開ける世界
―西川さんは就職活動をなさっていたときに、面接を担当していた是枝裕和監督(代表作品:『誰も知らない』『空気人形』『奇跡』等)から個人的に声をかけられたことで、在学中から映画の現場に入ったというエピソードがありますが—
会社からは不合格の通知をいただいたけど、テレビの会社に行って、「映画をやりたい」って言ってますからね。当然かなと今は思いますね。で、その後面接官として私の話を聞いてくださった是枝監督から連絡を頂いたんです。映画がやりたいんだったらもう一回会いに来ないかと。
― 是枝監督から連絡をいただいた時点で、「やるぞ!」という意気込みでしたか?
そうですよね、そんな千載一遇のチャンスはないからね。
―クリエイターになりたいとか、それこそ映画や演劇、文章で食べていきたい学生が今も昔も渦巻いている空間が文キャンだと思うんです。しかし先ほど西川さんご自身もおっしゃったように、いろんなものに挑戦したいからこそ、考えがぶれてしまう自分に罪悪感を感じてしまったり、マイナスな言葉に振り回されてしまうこともあります。不安定な立場になることを承知で自分の目標にぶっこんでいくにはどうすればいいのでしょう?
今の話にあったように、私もものすごくぶれてるんですよね。なんの信念もないし、「これをやろう」と思ったことが続いたためしもないし、だから専修も曲がっちゃったし、入っても勉強しないし。写真やってだめ、あれだめ、映画も自主制作は嫌だ—
でも、本当にタイミングですよ。物事って、本当に。
誰でもみんな何かをするその時々で「こっちがいいんじゃないか」、「いや違うんじゃないか」、と迷うことってありますよね。そんなときに誰かがいい球を放ってくれるかどうか—それが縁だと思います。それがなければその道には縁がなかったってことでまたぶれてもいい、とも思いますし。
私も若いころ、もっとしっかりしなくっちゃって思ってました。でも、22歳やそこらでぶれない人もおかしいですよ。そんなのたぶんイチローさんとかだけだと思う。みんなぶれながら、「ここなのかな、この椅子はどうかな」って座り心地を試しながら、「これはできるけどこれはできない」っていう取捨選択をしていくことで自分のポストを見極めていくもの。ぶれてもいいと思いますよ。
私なんか自分の気持ちに正直にしか生きられない人種だから、人に何と言われようと聞かないんですよね。それによる弊害もあります。正直にしか生きられないからこそ、やっぱり人生は安定しない。
だけど、正直にしか生きられない人間が得ることのできる世界もありますし、失う世界もありますし、両面あります。どっちがいいとは言いません。親の言うこと聞くのもいいと思うし、自分の気持ちに正直になるのもいいと思うし。人間が生きている限り、失うものや得られないものがあるんだってことをわかっていればいいんじゃないんですか。「何々をしろ」って、私は上からは言えないのでね。だから、よくぶれてくださいとか言いようがないです(笑)
「写真って、楽しいよねえ」、と西川さんが一言。とても素敵な笑顔です。
(担当:樫村・石川・中川)